WT WELLBEING TOKYO

【第4回】杉山文野氏 トランスジェンダー活動家 vol.1

Date 2018.12.20

「あの人のウェルビーイング」では、谷家理香の周
りの素敵な生き方をされている方達に、その方が考えるWell-Being Lifeとは?をインタビュー形式で伺った内容をご紹介していきます。第4弾は杉山文野さんにお話を伺いました。

プロフィール:
早稲田大学大学院にてジェンダー論を学んだ後、トランスジェンダーである自身の体験を織り交ぜた『ダブルハッピネス』を講談社より出版。卒業後、2年間のバックパッカー生活で世界約50カ国+南極を巡り、帰国後、一般企業に3年ほど勤め独立。現在は日本最大のLGBTプライドパレードである特定非営利活動法人 東京レインボープライド共同代表理事、セクシュアル・マイノリティの子供たちをサポートするNPO法人ハートをつなごう学校代表、日本初となる渋谷区・同性パートナーシップ証明書発行に携わり、渋谷区男女平等・多様性社会推進会議委員も務める。

谷家理香氏 株式会社ウェルビーイングTOKYO代表取締役
【第1回】高橋百合子氏 E.OCT株式会社代表取締役
【第2回】エドワード鈴木氏 鈴木エドワード建築設計事務所代表
【第3回】日沖健氏 日沖コンサルティング事務所代表
【第5回】Rajshree Pathy氏 Rajshree Group of Companiesチェアパーソン兼マネージングディレクター

出会いのきっかけ

ー本日はよろしくお願いします。私は文野さんの著書の「ダブルハッピネス」が強烈な印象に残っていて、本の中のこの箇所がすごく好きなんです。

「『将来何になりたいの?』常に何かになることが前提となっているこの手の質問には疑問を感じる。会計士?医者?IT企業の社長?そんなのが答えになるのだろうか?将来の夢がイコール職業ではないはずだ。急いで何かになろうとするから迷うのだ。見つけようとするから見つからない。どんなに時間がかかろうと、僕は僕になる。それだけだ。」

特に『どんなに時間がかかろうと、僕は僕になる。それだけだ。』という箇所。この文章に書かれていることは全ての人に通じる根源的な問いだと思います。「自分が自分自身になる」これが一番難しいことですし、私にとっても究極の問いです。

ウェルビーイングTOKYOで「幸せ」に関するインタビューをすることになったときに、「ダブルハッピネス」というタイトルの印象が強かった文野さんにぜひお話を伺いたいと思っていました。

ー文野さんとの出会いはいつからだったか、文野さんからお話しいただけますか?

irodori(文野さんが経営していた神宮前3丁目のタイレストラン)が始まる前後くらいで、ご主人の谷家衛さんとごんちゃん(松中権さん)が一緒に仕事をする話をしていたことがあったと思うのですけれど、そのくらいの時からですかね。

ー「ダブルハッピネス」の本に私が文野さんに2015年にサインもらっていますね(笑)。出会いはきっとこの頃ですね。それからirodoriに食事をしに行かせていただいたり、友人のVERYのライターさんをご紹介したり、文野さんのバーに彼女と何度かお邪魔したり。irodoriはもう終了してしまいましたが、文野さんの今現在のお仕事はなにをしていらっしゃるんですか?

ほんとに、僕って何者なんでしょうね?今の収入のメインは講演や研修です。あとは会社さんのダイバーシティ関連のアドバイザーとして、毎月ミーティングに参加するなどをしています。もともと飲食店の経営を生業としており、現在でも新宿と渋谷で一軒ずつ小さなBarも経営していますが、現在は活動のほうが忙しくなってしまいお店はほぼ現場に任せてしまっています。あとは東京レインボープライドのほうはほぼボランティア状態なんですが、去年の年末からお小遣い程度の給与が出るようになりました。

ーそうなんですね。去年15万人が参加したという、代々木公園での東京レインボープライドは何か月もかかりっきりになる一大プロジェクトなのに、それはすごいですね。

幸せだと感じるとき

ー文野さんが一番幸せだと感じるのはどんな時ですか?

家族や仲間とワイワイご飯を食べているときに感じます。飲食店をやっていて、いろいろな人がそれぞれ楽しそうに盛り上がっているのを見ると、何とも言えない幸福感がわいてくるんですよね。僕は自分のことを「場所づくり屋さん」だと思っているのですが、パレードでも飲食店でも、ゴミ拾いでも、いろいろな人たちが垣根を越えて集う場所をつくる、ということをやっていて、そういう場所を作れたら幸せだなと思っています。

様々な人との出会いがあって今の自分がある、だからこそ今度は自分が出会いの場所をつくりたいと思っています。悩み事を紐解いてみると、ちょっとした出会いがきっかけで変われたりするじゃないですか。いろいろな出会いの相乗効果が生まれて、より良くなっていくような出会いの場所を作るというのが面白いと思っています。


ーもともとご実家がとんかつ屋さんで飲食店だということも関係がありますか?

そうですね、飲食店というのはすごく身近でしたね。僕は結構「飲みュニケーション」を大事にしていて、会議室で話すよりも一杯交えながら話すほうが距離も近くなると思っています。初対面の場面でちょっと距離を置いたところからスタートすると時間がもったいないと思うんです。カッコつけた偽りの自分とカッコつけた相手と社交辞令だけ言い合っている時間があったら、本当の本人同士ではじめから話して、もし合わなければ一緒にいなければいいし、本当に合う人と一緒にいる時間を大事にしたいと思っています。

「ダブルハッピネス」の本を出した後に、いろいろな人からいろいろなことを言われて結構しんどくなった時期がありました。「自分がどうありたいか?」というよりも「周りにどう見られたいか?」というほうが大きくなってきてしまって、本当の自分と周りから評価される自分が乖離していく感じがして。それがしんどいなと思い始めて、カッコつける自分をやめたんです。カッコつけた自分をいいと言ってくれる人が100万人いるよりも本当の自分と仲良くしてくれる数人と一緒にいたほうがいいなと思っていたのですが、カッコつけをやめてからのほうが、結果的に周りに人が増えた感じがします。

本当の自分になる

ーおもしろいですね。「ダブルハッピネス」を書かれて、「小さいころからの違和感を解消して本当の自分になった」とおもったら今度はまたその本により世間からの期待に沿おうとして葛藤が生まれる。行ったり来たりしながら、だんだん自分の軸ができてきたという事ですね。「お医者さんになりたい」といった考え方って直線的な考え方ですが、自分を探すことは、本当はいろいろな道を行ったり来たりしてつながっていくことなのだと思います。

そうですね、いいことがあって悪いことがあって、突き進むときもあれば悩むときもあって、そういうのを繰り返していくうちに、どれだけ幅が出てもぶれない軸っていうのができていく感覚があります。僕は身体で学ぶほうなので、やりたいことがあればまずやってみる。やってみれば成功しようが失敗しようが一つ経験値が積み重なるし、そうしていくうちにやっぱり自分にはこれが合っている、合っていないということがわかっていくのかな、と思っています。

言語化されると思考停止することがあると思っていて、例えば「男性」っていう言葉に最初から当てはまってしまうと、「男性って何なのか?」ということを考えることってあまりないと思うんですよね。僕自身、良いも悪いも「男性」にも「女性」にもどちらにも当てはまらなかったからこそ、「自分って何なんだろう」っていうことをずっと考え続けてきた。それが今となっては自分を知るすごくいい機会になったなと思っています。

その中で「性同一性障害」っていう言葉が出てきたときに、これが自分に当てはまる言葉だと思ったらすっきりしちゃって。それがどういうことなのかを考えることを停止していたことがありました。でも、「性同一性障害」なのか、「トランスジェンダー」なのか、「病理」なのか「生き方」なのか、といういろいろな見方があって、障害ではなくて生き方っていう考え方もあるんだということを知って、またどっちなんだろうと考えたりして。


ー「言葉」って概念を共有するのにはもちろん便利ですけれど、言葉で一般化することで安心してしまって、思考がとまってしまうというのはありますよね、確かに。

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