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【第9回】及川史歩氏 インド政府認定アーユルヴェーダドクター vol.2

Date 2021.06.30

「あの人のウェルビーイング」では、谷家理香の周りの素敵な生き方をされている方達に、その方が考えるWell-Being Lifeとは?をインタビュー形式で伺った内容をご紹介していきます。今回はインド政府認定アーユルヴェーダドクターで、日本アーユルヴェーダ・スクール副校長でもある及川史歩先生にお話を伺いました。

プロフィール:
日本アーユルヴェーダ・スクール副校長 
ハタイクリニック専属アーユルヴェーダ医師

インド政府認定アーユルヴェーダ医師(B.A.M.S.) 
NPO法人日本アーユルヴェーダ研究所理事
一般社団法人 日本アーユルヴェーダ学会理事
インド国立グジャラート・アーユルヴェーダ大学(IPGT&RA Jamnagar) 卒業、同パンチャカルマ科修士課程修了(M.D.Panchakarma)
マニパル大学パンチャカルマ科修了 /マハリシ・パタンジャリ・ヨガ学院 ヨガ・自然療法修了証取得

谷家理香氏 株式会社ウェルビーイングTOKYO代表取締役
【第1回】高橋百合子氏 E.OCT株式会社代表取締役
【第2回】エドワード鈴木氏 鈴木エドワード建築設計事務所代表
【第3回】日沖健氏 日沖コンサルティング事務所代表
【第4回】杉山文野氏 トランスジェンダー活動家
【第5回】Rajshree Pathy氏 Rajshree Group of Companiesチェアパーソン兼マネージングディレクター
【第6回】梶原建二氏 ニールズヤード レメディーズ社長
【第7回】マニヤン麻里子氏 株式会社TPO代表取締役
【第8回】村瀬亜里氏 「嘉門工藝」主宰

インドでアーユルヴェーダドクターとして勤務

T:帰国されてから、ハタイクリニックでもアーユルヴェーダの診療を行っていらっしゃいましたよね。

O:2012年からハタイで勤務していました。アーユルヴェーダの大学に通っているときから、上馬塲和夫先生(注1)は私のヒーローなんです。当時は、上馬塲先生はハタイクリニックに火曜日にいらしていたんですね。そして帰国後、私が1週間のうちに1日ハタイに勤務することになって、上馬塲先生と同じ火曜日をリクエストしました。

上馬塲先生が行っていらっしゃる活動というのは、アーユルヴェーダの価値を翻訳しているということだと思います。単に言葉を訳したりカタカナに変えたりするだけではなくて、古代に使われていた単語の意味や、治療の作用機序を現代科学に当てはめて理解できるように体系化するという研究です。サンスクリット語の古典そのものも聖書と同じような分厚さがありますが、それを他言語に翻訳するとなると、何冊にもなってしまうんです。ひとつの単語が様々な意味合いを持っていたり、古代ではこうだったものは、現代に当てはめるとこういう解釈にもなりうる、といった注釈がたくさん出てくるんですね。

私、実は人見知りなのと、当時とても忙しかったので、上馬塲先生とあまりきちんとお話しする機会はなかったのですが、時々相談事をしに行って、お話を聞いてもらったりして、交流ができてとても良かったです。

その後、2015年からまたインドの大学院に通いました。私は、アーユルヴェーダの横のつながりというのは大切だと思っているんです。例えばクリシュナ先生(日本アーユルヴェーダ・スクール校長)は大学院を卒業されたのは35年ほど前ですが、今でも大学院時代の同級生と交流があり、彼らは大学や製薬会社なんかの偉い方々になっているんですね。日本でも将来的にもっとアーユルヴェーダを広めていくには、やはり横のつながりをもっと持たなければと思い、2018年のまたインド留学をするのですが、その時はインドのいろいろな大学院に見学に行ってどこの大学院に優秀な生徒が集まっているのか、よく検討しました。そして優秀な生徒が集まるジャラート・アーユルヴェーダ大学の大学院に留学することを決めました。今の優秀なインド人の学生たちと友達になって、繋がっておけば、20年後、30年後にすごい人脈になるのではと思って。

T:通われていた大学院は、インドの有名なアーユルヴェーダ大学ですね。

O:当時私が通っていたグジャラート・アーユルヴェーダ大学というのは、全国の優秀な学生、いわゆる上澄みクリームの層だけが通える大学院と言われていました。アーユルヴェーダ医に必要な要素として経験を重視している大学院で、教授も学生にどんどん診察させるし、任せてくれるというか、つべこべ言わずにやってみろ、経験を積んでいけ、というスタイルでした。

私自身は外国人のインド政府の特別奨学金の枠で入学資格を得ましたが、インド人は3000人受けて50人しか受からない高倍率なんです。入学時のスコアの高い学生から好きな学科を選ぶことができるのですが、その中でも一番人気であるパンチャカルマ(アーユルヴェーダの象徴的浄化療法)科に進みました。パンチャカルマ科に進めるのは6人だけの狭き門で、毎年入学するインド人学生50人に外国人枠は3人。先生に直談判してパンチャカルマ科に入れてくれと頼み込み、運というかご縁というか、希望通りに入れました。パンチャカルマの枠に入るために並々ならぬ努力をして来ているインド人学生も多くいて、もしあなたがいなかったら私がパンチャカルマに行けたのにと言ってくる学生もいました。いろんな人を蹴落として勉強させてもらったので、アーユルヴェーダをきちんと日本で広めて、人の役に立てないといけないという使命感を感じています。

患者さんたちからも本当に多くのことを学びました。インドでは、アーユルヴェーダも現代医療も違和感なく共存して、例えば大きな通りを挟んであっちとこっちにアーユルヴェーダと西洋医学のどちらも国立の病院が経っていることもあります。患者さんも臨機応変に使い分けていて、骨折したり出血したりしているときは西洋医学、妊活とか生活習慣病だったらアーユルヴェーダといった感じで病院を選んでいます。あとは正露丸のように家に置いておく常備薬の感覚で、アーユルヴェーダの一般的な薬をもらいに来る方もいますね。かなりの数の患者さんがいらっしゃって、午前中で150人くらい来ることもあるので、医師が5~6人横並びに椅子に座って、患者さんのお話を聞いて数分で処方をしながら、食べたらいけないものや生活の中で気を付けることをアドバイスするというような流れで仕事をしていました。

T:かなりの激務ですね。

O:いろいろな患者さんがいました。リウマチなどで痛みがひどい症状の方が入院していて、夜中にナースから呼び出しの電話が来る。患者さんがあまりに痛がっているので来てくださいというのです。行ってみると、自分の親だったら痛み止めを飲ませてあげたくなっちゃうくらいのひどい痛みで苦しんでいる。痛み止めが必要であれば現代医学の痛み止めを処方しますよって伝えたら、薬を飲む必要があるかどうかは先生が決めてくださいと言うんです。この人は私以上にアーユルヴェーダで病気を何とかしようとしているのに、その人の前で私はなんてことを言ってしまったんだろうとはっとしました。私、患者さんの前では絶対泣かない主義なのですが、その日は夜中にバイクで家に帰りながら涙がぽろぽろ止まりませんでした。アーユルヴェーダへの向き合い方に関しては、患者さんから本当にたくさんのことを学びました。

国立のインドの病院では薬代も治療費も基本無料で、少し特別な薬を使う場合は、別にお金がかかるのですが、支払えない患者さんの代わりに自分の奨学金からお金を出したりもしていました。インド政府からもらっている奨学金は、患者さんのために使おうと思っていて、自分で薬を買って渡したり、自分で薬用ギーを作って渡したりしていました。

T:素晴らしい、奨学金も患者さんに還元されていたんですね。患者さんはどのような方が多かったんですか?

O:野戦病院のような環境だったので、本当に様々ですね。でも学びが多ったのは貧しい方と、超リッチな方たち。

中間の、ちょっとお金があるような方は、いろいろと注文が多いんですよね。マッサージが無料だから受けに来たからやって、とか、煎じ薬じゃなくて甘い薬じゃないと飲みたくないとか、入院するなら個室じゃなきゃ嫌だとか。貧しい人たちは、文字通り自分の身体を投げ出して私に預けてくれていて、こんな施術しますと説明したら、よしやってくれ、全て先生に任せるって言うんです。その精神力の強さが勉強になりました。超リッチな方たちのほうは、教養もあるし医療への理解もあって、勇気もある。何が起きても大丈夫という自信もあるし体も丈夫です。3年間行っていましたが、結構人気もあったのでインドに残って仕事をするのもありだなとも考えていました。

T:日本に帰ってこないという選択肢もあったんですね。

O:そうですね。でもやっぱり日本が好きなんですよね。真面目で洗練されて、あるものをより良くしようとする日本にアーユルヴェーダを落としてみて、昇華させてみたいと思いました。そして日本からアーユルヴェーダをインドに逆輸入することでインドに貢献したいと思っています。

現在の活動

T:2018年に日本に帰国されてからはどのような活動をされているのですか?

O:インドから帰ってきてからもう2年半ですね。コロナもあってあっという間でした。日本に帰ってきてからは日本アーユルヴェーダ・スクールでまた教え始めたのと、ハタイクリニックでも勤務し始めまして、火曜日と金曜日に出ています。先日から土曜日も診療するようになりました。

河口湖でのパンチャカルマキャンプ(浄化療法合宿)も同行するようになりました。残念ながらコロナで2020年と2021年は中止になりましたが。合宿で患者さんとじっくり接する時間を持つと、調子がどんどん良くなるのが目に見えてわかるのが良いですね。パンチャカルマがうまくいったときにインドリアが開花する、インドリアプラサードというのがあるのですが、それがわかるんです。例えば患者さんが、今日は嗅覚が冴えていて、昨日は感じなかった花のにおいが今日はしてくるとか、鳥の鳴き声が耳に入ってくるようになったって言うんです。こういう場面に出会えるのが、臨床の面白さですね。アーユルヴェーダの太古の古典との共有感が存在するんです。

T:それを日本で行っていらっしゃるのが、また素晴らしいことですよね。最近ではコロナの影響もあり、アーユルヴェーダや免疫力、セルフケアが注目されていますね。

O:日本でも自分でやる人が増えているようですね。生徒さんからも、アーユルヴェーダやディナチャリア(アーユルヴェーダが教える理想的な1日の過ごし方)という言葉が一人歩きを始めているという声を聞くようになりました。

 
 
 
(注1)上馬塲和夫先生
東洋医学と現代医学の融合をライフワークとして長年取り組んでいる臨床医であり研究者。広島大学医学部医学科卒業、日本アーユルヴェーダ学会理事。著書、翻訳多数。

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